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大阪高等裁判所 昭和59年(ラ)208号 決定

抗告人

西田工業株式会社

右代表者

西田太郎

右代理人

田中成吾

相手方

橋本建設株式会社

右代表者

橋本薫

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一抗告の趣旨及び理由

別紙〈省略〉記載のとおり。

二当裁判所の判断

1  一件記録によれば、次の各事実が認められる。

(一)  相手方は、昭和五九年三月一六日、大阪地方裁判所昭和五六年(ワ)第八三三九号請負代金請求事件において仮執行宣言付勝訴判決の言渡しを受け、同月二二日右判決につき執行文の付与を受けたこと。

(二)  抗告人は、右判決につき大阪高等裁判所に控訴を提起し、同月三〇日、同裁判所において金一二〇〇万円に相当する有価証券を供託することを条件として控訴の提起に伴う執行停止決定を得、同年四月三日右有価証券を供託したこと。

(三)  右執行停止決定正本は、同月二日相手方に送達されたこと。

(四)  相手方は、同月二〇日、京都地方裁判所福知山支部に、前記執行力ある判決正本に基づき、抗告人が神戸市に対して有する請負代金債権の差押命令を申し立て、同月二四日、同裁判所において右申立てに係る債権差押命令がなされ、同命令は、同月二五日に第三債務者である神戸市に、同月二六日に債務者である抗告人にそれぞれ送達されたこと。

(五)  抗告人は、同月二七日、同裁判所に前記執行停止決定正本及び供託書を提出し、同裁判所裁判所書記官は、同日、債権者である相手方と第三債務者である神戸市に対し債権者による取立て及び第三債務者による支払をしてはならない旨の通知を発送したこと。

(六)  抗告人は、同年五月二日、原裁判所に本件執行抗告の申立てをしたこと。

2  そこで、抗告の理由について検討するに、民事執行法第三九条一項の法意に照らせば、控訴の提起に伴う執行停止決定は、この決定がなされたことにより当然に勝訴判決の実体的執行力を消滅させ、又は強制執行を停止させるものではなく、あくまでも執行手続に関して、その決定正本の提出を受けた執行機関が以後執行を開始し、又は続行することができないという拘束を受けるにとどまるものと解すべきである。これを本件についてみると、前記認定の事実によれば、本件執行停止決定正本は、差押命令が発せられた後に執行機関である原裁判所に提出されたのであるから、同差押命令が民事執行法第三九条第一項第七号に抵触して違法となるものではない。なお、本件債権差押命令に対する執行抗告期間内に執行停止決定正本が原裁判所に提出されたからといつて、債権差押命令がすでに発せられ、執行裁判所の執行行為が終了している以上、その差押命令につきもはや執行停止をする余地はないから、右結論を左右するものではない。

また、執行停止決定は、右に説示したように判決の実体的執行力に係わるものではないから、本件債権差押えの申立てが執行停止決定後になされたからといつて、当該申立てそのものが違法となるものではなく、更に、判決につき執行停止決定がなされていることを差押債権者において知つていたにもかかわらず債権差押えの申立てをしたからといつて、当該申立てが直ちに権利の濫用に当たり違法となるものでもない。

3  そうしてみると、原決定は相当であつて、本件抗告は理由がないからこれを棄却し、抗告費用は抗告人に負担させることとして、主文のとおり決定する。

(村上明雄 寺﨑次郎 安倍嘉人)

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